TOP > 歌声の研究(ボイトレ研究)TOP >腹式呼吸を神格化しても意味はない。最低限できればOK。
2017.3.13更新 2015.5.8作成

腹式呼吸とは何か?

腹式呼吸に関しては、もうすでに十分な認知度だとは思いますが、簡単に説明すると、

○メカニズム面
腹筋や背筋を使い、横隔膜を下げ、肺の中の空間が開き(肺の中の空気圧が下がり、)、通常の呼吸(胸式呼吸)よりも多くの空気が肺に入ってくる呼吸になります。

○フィーリング面
お腹に空気が入るような感覚の呼吸になります。

様々な本やサイトでいろいろやり方が書かれていますが、遠くに「おーい」と叫ぼうとしたり、寝たりすると自然と腹式呼吸になると思います。

特別な理由がない限り、歌う際は腹式呼吸で呼吸します。

しかし、腹式呼吸がどれだけ重要と考えるかは、理論によってまちまちです。

ボイストレーナーによっては、発声を鍛える方法論を腹式呼吸のみで説明しようとする人もいますが、 当サイトでは、声帯や共鳴の鍛錬なしに発声が上達することはないと考えています。

ケースバイケースではありますが、高い声が出ない、声量が出ない、声質がこもりがちという問題に対して、 より一層の腹式呼吸をトレーナーからレッスンされると、少しは改善するかもしれませんが、 それは発声を崩して無理やり出している声になっているのではないでしょうか?


目の前で、体育会系の方々が腕立て伏せの競争をしているとしましょう。 彼らは、限界に近づいてきたときに、「気合」や「背筋・脚の筋肉」でなんとか補助して数回分の回数を稼ぐでしょう。

最後の少しが「気合」や「背筋・脚の筋肉」で稼げたからと言って、
次の競争に備えて、「気合」や「背筋・脚の筋肉」のみを鍛えるでしょうか?


よほどクレイジーな方でない限り、必ず腕の筋肉を鍛えるはずです。


歌に関しても、声域、声量、声質の最後の少しが腹式呼吸で稼げたからと言って、 腹式呼吸のみを鍛えるのではなく、声帯回りの筋力や響かせ方を鍛えるべきです。

当サイトでは、歌において呼吸は息を声帯へ供給するだけなので、 腹式呼吸は最低限できればOKで、必要以上に呼吸を鍛える必要はないというスタンスです。

特別な呼吸の鍛錬をするというよりは、実際に歌うことを通じて、 的確なスピードで的確な量を吸い、しっかりと吐ききり、また吸う ということを目指すべきです。


もちろん、歌以外の要素(基礎体力を鍛えるなど)において呼吸器系を鍛えるメリットはあるかもしれませんが、 発声においては、最低限できていればOKです。




同じような意見(書籍より引用)

 「むしろ不自然な呼吸法は、喉頭を抑圧するだけなのだ。」(武田梵声,2012,p42)

 「本来、呼吸は無意識に行っているので、歌唱時も基本的には意識する必要はありません。
  しかし、音と音とが接近していて、どうしてもそこで呼気を素早く行わなければならない場合は、
  意識的に呼気を行う必要があります。」(小野正利,2012,p48)

 「Nor do you need to do any special exercises to strengthen your breathing muscles.」(SETH RIGGS,1992,p27)
 (呼吸系の筋力を強くするための特別な練習をする必要はない。)

 「歌うときに必要な息の量=話すときの息の量」(石川芳,2009,p46)

【このページの参考文献】

武田梵声(2012) 『ボーカリストのためのフースラーメソード』 リットーミュージック
小野正利(2012) 『限界を超えるハイ・トーンが出せる本』 リットーミュージック
後藤友輔(2011) 『魔法のボイストレーニング』 日東書院
石川芳(2009) 『1週間で3オクターブの声が出せるようになる本』 リットーミュージック
NOV(2008) 『地獄のボーカル・トレーニング・フレーズ』 リットーミュージック
DAISAKU(2008) 『ボーカリストのための高い声の出し方』 ドレミ楽譜出版社
高田三郎(2008) 『高い声で歌えるデイリー・トレーニング・ブック』 リットーミュージック
ロジャー・ラヴ(2005) 『ハリウッド・スタイル実力派ヴォーカリスト養成術』 リットーミュージック
亀渕友香他(2002) 『歌がうまくなる本』 主婦と生活社
SETH RIGGS(1992) 『SINGING FOR THE STARS』 Alfred